喧騒から逃れて・・奥渋「㐂宵」でほっと一息

「㐂宵」は、渋谷のセンター街を抜けた先にある奥渋エリアに位置します。日本酒をメインとし、手作りの家庭料理でおもてなししてくれる小料理屋です。
インタビュー前編では、独立から「㐂宵」オープンまでの経緯、さらにお店の雰囲気やスタッフへの教育で若女将が心がけていることなどをお届けします。
若女将の、お店や料理へのこだわりもお話しいただいていますので、ぜひご覧ください。
ちょっと意外な若女将の経歴

飲食店が立ち並ぶ奥渋で小料理屋「㐂宵」を経営する若女将。
若女将になるまで、どのような経緯があったのでしょうか?
ちょっと意外な職歴もお持ちな若女将に開業までの道のりを伺いました。
―飲食店を開業したいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
元々は美容専門学校を卒業後、美容師の道に進んだんですけど…。
私の中では、早く自分の出来る仕事を安定させたいというのがあって。その安定に向けて、若いうちに色々なことを自分で身に着けたいと思ったときに、美容師だとハードワークでちょっと限界があるかなと正直感じていました。
―美容師さんは確かに朝早くから夜遅くまで…というイメージです
そうなんです。そこで、なにか他に出来る仕事があるかなと考えたときに、祖父母が元々飲食店をやっていたのでその影響もあって「飲食店をやりたいな」という気持ちがだんだん大きくなってきて。
美容師を辞めた後は、独立を視野に入れながら、約1年間レストランやカフェなど3箇所くらいでかけもちしていました。
―独立のために勉強されていた期間は1年間ですか?

しっかり飲食店で働いていたのは1年間ですね。
高校生の時から飲食店でしかアルバイトしたことがなかったので、それも含めると長く色々なお店で働いていたんですけど。厨房の中に入って仕事をするっていう意味では、その1年間だけかもしれません。
それぞれのお店の良いところを今後取り入れていこうと思いながら、朝から晩まで色々なお店で働いていましたね。
―高校生の時から飲食店で働いていたってことは、もうその頃から飲食業に興味があったんですか?
そうですね。今思い返しても、アルバイトしていたのはほぼ飲食店でしたね。いつもほかの選択肢を考えたことがあまりなかったです。
アルバイトを変えるときも「飲食店の中でどこがいいかな?」って、いつも探していました。
働いたお店は、レストラン・カフェ・ファミレス・回転ずし・和食チェーン店・洋食・BARとか…個人店・チェーン店に限らず、色々ですね。
「㐂宵」創業までの道のり

女将は、実は「㐂宵」の前にも、もう1店舗お店を構えていました。
初めてお店を持ってから、「㐂宵」創業までの道のりはどのようなものだったのかお伺いしました。
―独立をすることとなったきっかけは何だったのですか?
「飲食店をやりたい」という気持ちが周りに伝わったのか、すごく良いタイミングで物件のお話をいただいて。「今だ!」と思って、すぐに独立しちゃいました。
2013年に最初のお店をオープンして、4年ほど営業していました。その後、1年間産休をとるために閉めたんです。その1年間は、出産・育児をしながら、同時に店舗を探していました。
―なぜ奥渋谷を選ばれたのですか?
渋谷エリアって、大人が飲めるお店が少ないんですよね。神泉の方に行くと、あるはあるんですけど、ちょっとガヤガヤしていたり。渋谷に大人がゆっくり飲める空間を作りたかったんです。
あとは、祖父母も渋谷でお店をやっていたことがあるので、前から「渋谷がいいな」というのは頭にありましたね。
元々1軒目が、このお店が入っているビルの2階だったんです。渋谷とはいえ、この辺りは若い方はあまりいらっしゃらないんです。治安も客層もすごくよくて、品のあるお客さまが多いですね。
―なるほど。それで2軒目もこのあたりで、と探していたんですか?
そうですね。でも、ちょうど空き物件を探していた2017年ころはオリンピックに向けた飲食店の開業が盛んで、なかなか見つからなくて…。
そんなときに、このビルのオーナーさんに「1階の焼き鳥屋さんがやめるからどう?」と声をかけていただいたんです。元々2階でお店をやっていて顔見知りだったので、「物件を探している」ことはずっと伝えていて。
そのおかげで、2017年に「㐂宵」を無事オープンすることができました。
―前のお店も入れると結構長くこちらでやられているんですね
通算して7年くらいになりますね。1軒目のお店に来てくれていたお客さまが5年ぶりくらいにフラッと来てくれるとすごく嬉しいですね。
それこそインターネットとかあまり使わない方とかは、私が2階から1階に移ったことを知らないんですけど。そういう方がたまたまお店の前を歩いていて、私と目が合って「あ!」となる瞬間、すごく温かい気持ちになります。
またこの場所でやってよかったなって改めて思えますね。
喜びある夜を過ごせるように..
産休を経て、またお店を構えることができた女将。「㐂宵」には、どのような想いが込められているのでしょうか。
また、料理やお酒のこだわりについてもお伺いしました。
―「㐂宵」はどのような想いでオープンしたんですか?

「㐂」は喜び・楽しい、「宵」は夜という意味で、「喜びある夜を過ごせるように..」という想いが込められています。
以前やっていたお店は、「和」をイメージするような、こげ茶をベースとした内装だったので少し暗めでした。お客さまがおひとりで静かに飲むっていう場合には良いんですけどね。次のお店は明るく楽しい雰囲気にしたいと考えていたので、内装も明るくしようっていうのは心がけた点ですね。
―確かにお洒落なライトが各所に設置されていて店内は明るいですね
あとは、当時女性のみで若くしてお店をオープンしたっていうのもありますね。
女性の方でも来やすかったり、仕事で来ても男女で来ても、居心地の良いようなお店っていうのを目指して内装を考えました。
前のお店は、女性のお客さまが月に1人くるかどうかだったんですが、今は1日に何人も来てくださるのですごく嬉しいです。
―接客する際に心がけていることはありますか?
とにかく気軽に来ていただきたいので、あまりかしこまりすぎずに楽しく接客することを心がけています。お客さまからすると私はすごく年下なので、娘のような感覚で来てくださる方も多くて、その空気感を壊さないように意識してますね。
「楽しくすること」これはほんとに私だけでなく、他のスタッフにもあまり壁を作るような接客はしないように、と伝えています。
他のお店と少し違うかもしれないけど、お客さまと楽しく接して、お客さまが気軽に色々話してくれる空間を作れるように。その点は、全スタッフ意識して接客をしています。
―日替わり女将制を導入されていると伺ったのですが?
はい。現在、私以外のスタッフが7名います。それぞれ年齢層もバラバラで、これまで飲食業を経験していた子もいれば初めての子もいて。それぞれに個性があるので、そこは活かすようにお任せしています。
お客さまには週に3日来ていただいても、毎回女将が変わるので、違うお店にいるみたいに楽しんでもらえると思います。
―Instagramを拝見しましたが、タロット占いも行っているとか?
そうなんです。1人の女将がタロットをやっているので、私が出勤する曜日にひと席使ってお客さまを占っています。
そのときはいつも以上に混みます!開催するときは女性が多かったりでいつもと客層が少し違うんですけど、盛り上がりますね。
男性の方も「占いで」って予約するのが恥ずかしいから、普通に飲みにきて、その場でどさくさにまぎれて見てもらったりしています(笑)
―料理のこだわりはありますか?

料理は温かい気持ちになれるような「家庭料理」をコンセプトに、定番メニューと週替わりメニューをご用意しています。「家で食べるもの」をテーマにしつつも、「なかなか家で毎回取り入れていくのは大変」というような煮物や漬け物とか、あとは旬の魚を使った料理を作っています。

今日ご用意したのはだし巻き玉子と、ホタテのなめろう自家製醤油麹和えです。
だし巻き玉子は、私がいる日にしかお出ししていません。
―だし巻き玉子は女将がいる日のみの限定メニューなんですね
だし巻き玉子は少しコツがいるので。
基本的にお料理は、女の子たちが作るのに無理のないようなものを出すっていうのも大事だと思っています。凝ったものを作ると1人1人の負担も増えちゃうし、中途半端な料理が提供されちゃうので、自分たちが出来る範囲のお料理を考えてお作りするようにしています。
あとは、日本酒に合うおつまみをお出しするようにしています。
―お酒は日本酒がメインですか?
はい。お酒は「○○県のお酒」「こだわりのお酒」とかというよりは、バランスよく取り入れることを意識していて。

甘いのが好きな方、重いのが好きな方、お燗が良い方っていろんな方がいらっしゃるんですけど、特に素人の方でも楽しめたり、ちょっと飲んでみようかなと思えるようなお酒を何種類も置いています。それで、だんだんと日本酒が好きになってくれたらいいなって。入口になるお店であると嬉しいなと思っています。
少しプライベートなおはなし

経営者としても母親としても忙しい、若女将のプライベートを少しだけ覗かせてもらいました。
若女将がよく行く飲食店とは?
―プライベートでよく行く飲食店はありますか?
三軒茶屋にある、日本酒とイタリアンをマリアージュさせているお店によく行きます。イタリアンのシェフが手掛けていて、すごい美味しいです。
あとは、人形町の小料理屋さんです。着物を着ている2人の可愛い女将さんがいて、美味しい割烹料理を出してくれます。
―プライベートでも結構お酒は飲まれるんですか?
子供が生まれてからなかなか夜に外出するのが難しいので、あまり飲みに行けていませんが…。
行ける回数が少ないので、行くときはなるべくこだわって、知り合いのお店とかに行ったりしています。
渋谷を訪れた際にはぜひ「㐂宵」へ

本格的に独立を視野に入れてから約1年間ほどで独立を果たした若女将。とにかく自分の想いに正直になってやってみる、ということは大切なんですね。
とはいえ今の状況では、なかなか積極的に行動することは難しい場合も多いでしょう。今は、いざ実行できる環境になった時のために、やりたいことを明確にしておくのも良いかもしれませんね。
そんな若女将が大事にしていることは、居心地の良さ。
「楽しい夜を過ごしたい」「若女将おすすめの日本酒を飲んでみたい」という方は、ぜひ「㐂宵」へ足を運んでみてくださいね。
㐂宵インタビューは後編に続きます!
着物が似合う若女将特集 第2回~「㐂宵(きよい)」(後編)
常連さんや着物について~
㐂宵(きよい)
住所:東京都渋谷区宇田川町36-16-103
TEL:03-6427-0748
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